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Interview

Flower.far:国境を越えて、日本の名曲を歌う

約40年にわたる日本のポップスを自身の解釈で歌い直した初の日本語カバーアルバムについて語る。

LiFTED | Jun Fukunaga | 25 5月 2026


タイのR&Bシンガー、Flower.farが、初の日本語カバーアルバム『What if…』を2026年5月8日にリリースした。竹内まりや「Plastic Love」からm-flo「Yours only,」、imase「NIGHT DANCER」まで、約40年にわたる日本のポップスを自身の解釈で歌い直した7曲と自身のオリジナル曲の日本語バージョン1曲を収録した本作は、タイのレーベルYUPP! Entertainmentと日本のKSR Corp.による日タイ共同プロジェクトの第一弾として、札幌および、一部バンコク(タイ)でレコーディングされた。

なぜ、タイ人であるFlower.far が日本語カバーアルバムを制作することになったのか。タイフェスなど日本で行われたイベント出演のために来日した本人に制作の経緯やプロセス、さらには制作風景を収めたドキュメンタリーに込めた思いなどについて、話をうかがった。

ーー今回のプロジェクトでFlower.farさんのことを初めて知る読者の方も多いと思います。まずこれまでどんな音楽をやってきて、タイではどんな存在として知られているかも含めて、自己紹介をお願いします。

Flower.far:元々R&B寄りの音楽からキャリアを始めて、そこから少しポップスやインディR&Bに音楽性が広がっていきました。また、「COLORS」というYouTubeチャンネルへの出演や、レーベルメイトのMILLI、GALCHANIEと共に活動している”DREAMGALS”をきっかけにタイ国内での知名度が広がったと思っています。

ーー日本の音楽や文化と最初に出会ったのは、いつ頃で、どんなきっかけでしたか?

Flower.far:実は、日本の音楽には5〜6年前から親しんでいたんです。竹内まりやさんの「Plastic Love」などは当時からすごく好きで聴いていましたし、大学時代には日本語の曲を歌ったこともあります。ただ、はっきりと日本の文化に触れたと言えるのは3年前に日本のR&Bアーティスト3Houseさんと「U&I」という曲を一緒に制作したときです。それがきっかけで、日本の文化をより深く感じた記憶があります。

そして今回、KSRのスタッフさんとお会いしてカバーアルバムを作るということで、収録曲で使われている日本語一語一語の発音や意味を知りました。そういう意味では、3年前と今回のアルバム制作を通じて、本当に深く日本の文化に触れることができたと思っています。


ーータイ出身のFlower.farさんが日本語のカバーアルバムを北海道で制作するという、これまでにない形のプロジェクトとなりましたが、最初にこのプロジェクトについて聞いたときの率直な気持ちと、これを引き受けると決めた理由を教えてください。

Flower.far:まずは、挑戦したいという気持ちが本当に大きかったんです。最初は北海道のプロジェクトと聞いて、「おっ」と思いましたし、すごく難しいことだろうなとも思ったんですけど、「今の自分の境界線を越えてどんどん成長していきたい」、「タイ語以外の言語を使って歌ってみたい」、「タイ以外の国で自分の力を養いたい」。そういう思いがあって、今回のプロジェクトをお引き受けさせていただきました。

ーーご自身だからこそできると思った決定的な部分はどんなところですか?

Flower.far:私の強みは声と歌うスキルだと思うんです。ただ、ちょっと不安だったのは、日本語で歌うということですね。普段なじみがない日本語で歌うので、発音が至らなくて、うまく伝わらないんじゃないか、というのはずっと気がかりでした。でも、それを自分の歌うスキルでカバーしたいと思いました。それで日本のスタッフさんとも歌詞の意味について、本当に何度も話し合ったんです。

ーー実際の制作で意識したことを教えてもらえますか?

Flower.far:書いてある文面通りの意味だけではなく、「これってどういう背景があって、どういうストーリーで、作者さんは何を伝えたいんだろう」というところまで想像して、「どうしてこういう結果になったんだろうね」と裏の裏まで、意味を深掘りするということをやりました。また、曲のコードについても、「なんでこのコードを使って、このアーティストは制作しているんだろう」というところや「この曲をこういうふうに転調する意味はなんだろう」というところまで、深くディスカッションして作り上げてきました。

ーー今回のアルバムの中で特に思い入れのある1曲を挙げるとしたらどの曲ですか?

Flower.far:m-floさんの「Yours only,」です。最初はただ聴いているだけだとわからなかったんですけど、歌詞や意味を調べていくと、大切な人と別れてしまうという、すごく悲しい曲だと気づいて。「なんて悲しくて心揺さぶられる曲だろう」と、涙をこらえるのに必死でした。

一緒に制作していたタイ人のプロデューサーも、私の歌を聴いて「過去に知り合いの大切なパートナーが亡くなってしまったときの記憶が浮かんできたよ」と言ってくれたんです。それくらいこの曲が持つ意味を鮮明かつリアルに表現できていると褒めてもらえたのは嬉しかったですね。そういう経緯もあって、本当に思い入れのある曲になりました。

ーーレコーディングは北海道の札幌で行われたとのことですが、ここでの制作の体験は、ご自身の表現にどんな影響を与えたかを教えていただけますか? 

Flower.far:北海道でドキュメンタリーを撮ってみた経験は、自分にとって本当に大きいものになりました。私はタイ南部の出身で、湿気が多くて、年中常夏の環境で生まれ育ったので、雪国も雪自体も初めての体験でした。寒い国ならではの感覚や、文化的なものも、すべてが新鮮というか。例えば、タイだとクリスマスはイベント事として、楽しむぐらいなんですけど、日本では寒くなって雪も降るし、クリスマスというイベントだけじゃなく、その時期は一家団らんしながら、温かいストーブの前で温まるみたいなことをしますよね?そういう家族の温かさを感じました。それにタイ人の私からすると「これが本当の温かさなんだ」という感覚や「寒い中で人とどういうふうに関わっていくんだろう」ということも、楽曲を作るうえでのインスピレーションになりました。

ーーアルバムの制作過程がドキュメンタリー『FLOWER.FAR "What if… : A Voice Across Borders"』にまとめられていますが、このドキュメンタリーを通じて日本のリスナーに一番伝えたいのはどんな部分ですか?

Flower.far:ドキュメンタリーで伝えたいのは、まず、今回制作した楽曲はすべて心を込めて、スタッフ全員で一緒に努力しながら作り上げたものだということです。次にこれまでとは違う新しい私が、皆さんが親しんできた曲を「Flower.far」というフィルターを通してお届けするものだということです。このアルバムを通じて、「いかに皆さんとの距離を近づけられるか」ということを大事にしながら作りましたので、ぜひ聴いていただきたいし、その思いがドキュメンタリーを通じて伝われば嬉しいです。そしてまた日本に戻ってこられるように、これからも努力を続けますので応援よろしくお願いします。

ーー今のタイの音楽シーンの面白さは、どんなところにあると感じていますか? また、日本のリスナーにおすすめしたいタイのアーティストがいれば、教えてもらえますか?

Flower.far:今のタイの音楽シーンの面白さは、いろいろなタイの文化を独自のフィルターを通して発信しているアーティストがたくさんいるところにあると思っています。そういう意味で、タイのおすすめアーティストとして、まず紹介したいのが、GALCHANIEです。私と同じレーベルに所属している女性アーティストなんですけど、本当に特徴的な声で、歌もうまくて、いい曲を書くんです。


そして、もう一組は、The Paradise Bangkok Mor Lam International Bandです。タイの伝統楽器を新しく表現するような、まさにタイの文化を象徴するバンドだと思います。

ーー最後にこのアルバムのリリースを起点に今後日本でやってみたいことや挑戦したいことを教えてください。

Flower.far:日本語の曲をイチから制作することに挑戦したいです。そして、もしご縁があれば、そういう曲を日本の作曲家さんや作詞家の方とコラボレーションして作ってみたいですね。それが今後の目標であり、叶えたい夢です。